2013年04月22日
動物行動学・その1 「 春の数えかた 」
◎ くるくる変わる寒暖の中で、生きものたちはどうやって春の到来を知るのだろう。
小鳥が日長つまり一日のうちの昼の長さで季節を知ることは、半世紀以上前に実験的に明らかにされた。季節によって昼の長さが違うことを小鳥たちもわかっている。
けれど日長は気温とは関係がない。日の長さからすればもう春なのだが、年によってはまだ寒い日がつづく、ということもある。鳥のように自分で体温を一定に保つことのできる恒温動物ならいいが、虫のような変温動物たちは、こういうときには困るはずだ。
でも、そういう生き物たちも春になれば毎年同じ時期に現れてくる。それはなぜか?
昔から知られているのは、温度の積算である。三寒四温を経て次第に季節は春になっていく。
それもただの積算ではない。ある一定温度より低い、極端に寒い日には、その温度は数えない。この一定の温度は発育限界温度と呼ばれている。生きものをいろいろな温度で飼って、何日で発育が完了する―たとえば虫の卵が孵る、あるいは幼虫がサナギになる―かを調べていくと、温度と発育日数のグラフができる。温度が低くなるにつれて、発育にかかる日数は長くなっていく。そしてある温度でそれが理論的には無限大になってしまう。つまり、この温度以下では、何年待っても発育がおこらないのである。
日本に棲む多くの虫では、この発育限界温度はだいたい摂氏五度から十度の間にある。
そこで虫たちは、こんな「 計算 」 をしている。わかりやすく、この虫の発育限界温度を五度としよう。気温が五度以下の日は、何日あっても計算には加えない。冬のさなかでも、たまたま暖かくて、七度という日があったとしよう。すると、七度から発育限界温度である五度を引いた二度が有効温度になる。この二度×一日がこの虫の発育にとっての有効温量である
それから二、三日間は五度以下の日がつづき、その後、六度の日が三日あったとしよう。この分は「六引く五」度×三、つまり、一度×三=三日度と積算される。三月になって気温がずっと上がり、五度を引いた有効温度がその日数分だけ積算されていって、有効積算温量はめきめきと増加していく。
発育限界温度以上の温度を毎日足し合わせていったこの有効積算温量の総和が一定値(たとえば一八〇日度)を越えたら、卵から孵ったり、サナギからチョウになったりする。三寒四温の冬とはいえ、全体として季節が春に向かっていれば、温量の総和は次第に増えていって、結局のところ毎年ほぼおなじころには一定値に達する。そこでああ今年も春になった、と虫は思うのだ。
発育限界温度も有効積算温量の一定値も生きものの種によって違っている。それは長い歴史の間に、それぞれの種に固有に定まってきたものだ。
生きものの種がちがえば、春のくる日もちがうのである。(日高さんのエッセイ集より)
*ethology; 動物行動学
● 「 春の数えかた 」 というタイトルに日高さんの人生観が表れている。
人も虫も同じ地球の生き物という目線・イズムが素晴らしい。
● 啓蟄を含めて春先の野原はドラマチックだ。
これはMY畑の白木蓮です、三月の下旬に満開となります。
小鳥が日長つまり一日のうちの昼の長さで季節を知ることは、半世紀以上前に実験的に明らかにされた。季節によって昼の長さが違うことを小鳥たちもわかっている。
けれど日長は気温とは関係がない。日の長さからすればもう春なのだが、年によってはまだ寒い日がつづく、ということもある。鳥のように自分で体温を一定に保つことのできる恒温動物ならいいが、虫のような変温動物たちは、こういうときには困るはずだ。
でも、そういう生き物たちも春になれば毎年同じ時期に現れてくる。それはなぜか?
昔から知られているのは、温度の積算である。三寒四温を経て次第に季節は春になっていく。
それもただの積算ではない。ある一定温度より低い、極端に寒い日には、その温度は数えない。この一定の温度は発育限界温度と呼ばれている。生きものをいろいろな温度で飼って、何日で発育が完了する―たとえば虫の卵が孵る、あるいは幼虫がサナギになる―かを調べていくと、温度と発育日数のグラフができる。温度が低くなるにつれて、発育にかかる日数は長くなっていく。そしてある温度でそれが理論的には無限大になってしまう。つまり、この温度以下では、何年待っても発育がおこらないのである。
日本に棲む多くの虫では、この発育限界温度はだいたい摂氏五度から十度の間にある。
そこで虫たちは、こんな「 計算 」 をしている。わかりやすく、この虫の発育限界温度を五度としよう。気温が五度以下の日は、何日あっても計算には加えない。冬のさなかでも、たまたま暖かくて、七度という日があったとしよう。すると、七度から発育限界温度である五度を引いた二度が有効温度になる。この二度×一日がこの虫の発育にとっての有効温量である
それから二、三日間は五度以下の日がつづき、その後、六度の日が三日あったとしよう。この分は「六引く五」度×三、つまり、一度×三=三日度と積算される。三月になって気温がずっと上がり、五度を引いた有効温度がその日数分だけ積算されていって、有効積算温量はめきめきと増加していく。
発育限界温度以上の温度を毎日足し合わせていったこの有効積算温量の総和が一定値(たとえば一八〇日度)を越えたら、卵から孵ったり、サナギからチョウになったりする。三寒四温の冬とはいえ、全体として季節が春に向かっていれば、温量の総和は次第に増えていって、結局のところ毎年ほぼおなじころには一定値に達する。そこでああ今年も春になった、と虫は思うのだ。
発育限界温度も有効積算温量の一定値も生きものの種によって違っている。それは長い歴史の間に、それぞれの種に固有に定まってきたものだ。
生きものの種がちがえば、春のくる日もちがうのである。(日高さんのエッセイ集より)
*ethology; 動物行動学
● 「 春の数えかた 」 というタイトルに日高さんの人生観が表れている。
人も虫も同じ地球の生き物という目線・イズムが素晴らしい。
● 啓蟄を含めて春先の野原はドラマチックだ。
これはMY畑の白木蓮です、三月の下旬に満開となります。
Posted by masuzawa05 at 09:13│Comments(0)