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増澤信一郎の心模様

2009年05月18日

建築の ‘ 見せ方 ’

 
旅館の竣工写真を建築写真家に頼むと、先入観念が無い分、意外なアングルからのものが斬新で格好いい場合がある。けれども、お客さんがめったに行きもしないような場所からのカットは、それはそれで事実であり、空間の良さをより引き立てて見せてくれるのであれば営業的表現としては良いのだが、しかし普段のアプローチからの多くのお客様が普通に目にする建物景観が美しくなければ、いくら写真が良くても、外観デザインとしてはダメだと密かに思っている。     
アプローチ空間を仕組む場合、必然としての仕掛けは許されるが、まわりくどいのはいただけない。無理せず自然体のデザインが求められる。


 そんな中、巡り会った一文( 日本建築士事務所連合会月刊誌・Argus-eye ) より 

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 「 遠めに五重塔を眺めながらゆっくり歩いて近づいていってこそ、法隆寺の素晴らしさが味わえる。 」 と書いたのは哲学者の和辻哲郎だったように思う。たしかにその通りだ。
 古人はこの場所から塔を仰ぎ見て畏怖の念を感じたのだろうか。そんなことを考えながら斑鳩の里を行く・・・その道程で刻々と変化する塔の表情を見るのが、ここを訪れる楽しみなのである。

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 これに比べると、京都・八坂の五重塔は屋根勾配がきつく、立面図に描きおこせば鈍重な印象をぬぐえない。しかし、八坂にはあの屋根勾配の塔がふさわしい。それは現地に行くとよく解る。東大路から坂道を上がりながら塔をみると、きつめの屋根勾配ゆえに瓦が垂木の上に見え隠れするのだ。この場所に法隆寺の五重塔が立っていたとしたら、こんな見え方の楽しみはなかっただろう。設計者は屋根勾配に関して、その立地場所に最適な解を出した。建築の見せ方に対する配慮の賜物である。

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 同じ京都には、こんな楽しさを感じさせる所がたくさんある。例えば、慈照寺( 銀閣寺 )。周囲の景色を一旦遮断して銀閣寺垣と呼ばれる垣根の間を歩かせる導入部の巧みさ。

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 あるいは、大徳寺高桐院の門から玄関への石畳。紅葉で有名な名庭を垣根越しにチラリとだけ見せて心をくすぐる演出も心憎い。

 我々建築士は外観デザインを立面図を基に考えがちだ。しかし、立面図とは無限遠からその建物を見た図であり、けしてその通りには見ることができない姿図である。だからこそ、立面図的な思考をする一方で、実際の建築の ‘ 見え方 ’ を意識して建築に相対していくべきだろ。
 
「 読書百篇意おのずから通ず 」 とは古来よく言われる格言だが、我々建築士には「 現場百篇意おのずから通ず 」という教えがある。とにかく現場に行ってみる。そして、そこに計画している建物が、どのように見られるかをじっくり検討することの大切さを再認識したい。

 「 いかに見せるか 」・・・それは机上の思考ではカバーできない領域である。よくできた建築の廻りを歩きながら、作者が想定した “ 一番見せたかったアングル ” はどこだったのかを想像する。 こういう視点で作品に接することの面白さを伝えていきたいとおもう。      
( 会員: 戸田和孝さんの寄稿より抜粋。 )


● 私(増澤)思いますに、現地 ( 敷地 ) をよく見ること。そして何度でも歩いてみて、そこの “ 地成り(じなり) ” と “ 空気 ” が発想を喚起し、 建築の ‘ 見せ方 ’ を教えてくれると思っています。



● これは私共で設計した 『 御宿 THE・EARTH 』 の車寄せの ‘ 円空 ’です。鳥羽市のはずれ52,000坪強の原生林の中、海女の磯笛が聞こえる、切り岸に佇む “ 嵐を見る為 ” の瀟洒な16室の和の宿です。                                   
大自然の中に敢えて人工的な ‘ 輪 ’ を挟み結界としました。

 UFO(未確認飛行物体:Unidentified Frying Object ) → IFO( 確認飛行物体:Identified Frying Object )

『 UFO 』 ではなく 『 IFO 』 と洒落つつ、アプローチの見え方を仕掛けました。現況は未だ生々しいですが、カンボジアの遺跡のように、人工的なものも年降りて、やがて幽玄な原生林に埋もれるようにして生き永らえることでしょう。それが大自然に対するお返しのような気がします。

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○ UFOついでに、朝日新聞の 奇想遺産 に 『 石の家 』 が出ていました。
  ( 『 藤森照信グランド・ツアー 』 からの 「 UFO 」 編 )

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 建築史家の藤森照信さんによると:

 この40年間、古今東西、世界中のいろんな建物を探訪してきたが、自分好みといえるのは、やはり、 “ ポルトガルの石の家 ” につきるだろう。
 第一の特徴は、建築としてちゃんと作れている点だろう。コンクリートの壁には小石が張られ、コンクリートの屋根には瓦が葺かれ、しっかりしたドアとエントツが付く。素人セルフビルドにありがちな思いつきや放縦は見当たらない。 と述べています。

 ちなみに、石の家があるモレイラ・デ・レイはポルトガル北部のファフェ地域に位置する。あたりの丘陵地は樹木も少なく、草原のところどころに岩が転がっている。石の家は、そんな巨岩を四つ組み合わせて屋根を架けて壁で囲ったもの。岩の重さは小さなもので2トン、大きなものは10トンに達すると推定されている。
 近くの都市ギマランエスの建築家が設計し、建設したと考えられている。


● 私(増澤)思いますに、これは 自然に同化させた、見せない建築かもしれない。     
しかしながら、屋根のウロコ状といい、石と壁のブツブツといい、ガラパゴスのイグアナが丘の上で一休みといった風情に見えてしまうから不思議だ。かなり自己主張は激しい。 見せ方もいろいろだが、なにかのついでに一度訪れてみたい建物である。

見せ方も難しいが、生き方はもっと難しい・・・!?


Posted by masuzawa05 at 10:27│Comments(0)
 
心を形に表す
建築空間にはいろいろの「想い」がある。
具体的な平面から容積のある空間へと立ち上げるさまざまな作業の中で、オーナーの使い勝手や心情が、私の心を通して色づいていく。
思い入れ豊かに熟成された建築空間には、オリジナルでしなやかな空気が息づき始める。
豊潤で美しく、時に凛々しい。
機能的であることは大切なことですが、美的な創意工夫も大切な要素です。
そう思いながら設計しています。


増澤信一郎
S22年10月11日生まれ
芝浦工業大学建築工学科卒業
静岡県伊東市宇佐美在住
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